本コラムは、特定の事業所について言及するものではありません。就労継続支援A型事業所の会計構造と給付費の使途について、公開法令・厚生労働省通知・会計基準・経営実態調査に基づいて整理した一般的な制度解説です。本コラムの前提知識として、基礎知識コラム第1弾(行政処分・経営破綻・大量解雇の構造)をあわせてお読みいただくことをお勧めします。
はじめに ― 「給付金で給料をもらっている」のは誰なのか
A型事業所には、根強い誤解があります。「利用者は給付金で給料をもらっている」という認識 です。この誤解は利用者の外部だけでなく、一部の支援員や管理者にも共有されていることがあります。
しかし、制度の法的構造を確認すると、事実は逆です。
A型事業所の会計は、制度上「二つの財布」に分かれています。支援員・サービス管理責任者・管理者の人件費は自立支援給付費(訓練等給付費)から支払われます。一方、利用者の賃金は生産活動の売上から支払わなければならず、給付費から利用者賃金を支払うことは原則として禁止されています📌。
つまり、「給付金で給料をもらっている」のは、利用者ではなく支援員の方です。そして、その給付費が発生する根拠は「利用者が通所すること」にあります。利用者1人が1日通所するたびに、事業所には数千円の訓練等給付費が支払われる。その給付費の制度趣旨は、利用者への「支援の対価」です。
では、その「支援の対価」は、本当に支援として利用者に届いているのでしょうか。
第1章:「二つの財布」の法的構造
A型事業所の会計は、福祉事業活動会計と就労支援事業会計(生産活動会計)に制度上区分されます。この区分は、厚生労働省通知「就労支援等の事業に関する会計処理の取扱いについて」(平成18年社援発第1002001号、平成25年一部改正)に定められた就労支援事業会計処理基準に基づくもので、社会福祉法人か否かを問わず、すべてのA型事業所が遵守義務を負います📌。
収入:自立支援給付費(訓練等給付費)、利用者負担金、各種加算等
支出:支援員・サビ管・管理者の人件費、家賃、光熱費、通信費等の事業所運営経費
意味:「福祉サービスを提供する事業所の運営」に係る会計
収入:生産活動による売上(利用者の労働による成果物・サービスの対価)
支出:原材料費、外注費、利用者の賃金、配置基準超の指導員人件費等
意味:「利用者が行う生産活動」に係る会計
この二つの財布は、法的に明確に分離されています。基準省令第192条第6項は、次のように定めています。
賃金及び工賃の支払いに要する額は、原則として、自立支援給付をもって充ててはならない。ただし、災害その他やむを得ない理由がある場合は、この限りでない。
この規定と、同条第2項の「生産活動収支≧利用者賃金総額」(収支相償の原則)が組み合わさることで、支援員の給料は給付費で安定的に確保されるのに、利用者の賃金は事業リスクを直接被るという非対称構造が制度として確立されています📌。
支援員の人件費はどちらに計上されるのか
ここに重要な判定基準があります。厚労省のQ&A(平成19年障害福祉課事務連絡)は、支援員の人件費の計上先を以下のように定めています📌。
- 人員配置基準内の職員(基準省令第186条に基づく7.5:1または10:1の配置基準を満たすための職業指導員・生活支援員等)の人件費は、福祉事業活動の部に計上 → つまり給付費から支払われる
- 配置基準を超えて専ら生産活動に従事する職員(繁忙期の作業指導員、飲食店の接客スタッフ等)の人件費は、就労支援事業の部に計上 → 生産活動の売上から支払われる
この区分が意味するのは、支援員が生産活動に入ると、その人件費は生産活動の財布に移るということです。逆に言えば、「支援員は業務(生産活動)に入らない」という運用は、支援員の人件費を福祉事業活動会計(=給付費)に留めるための会計上の防衛ラインとして機能しうるのです📌。
第2章:給付費は何のために存在するのか
訓練等給付費は、障害者総合支援法に基づく「障害福祉サービスの対価」として国・自治体から事業者に支払われます。その金額は、利用者1人の1日あたりの基本報酬単価 × 通所日数で算定されます📌。
令和6年度(2024年度)のスコア方式による基本報酬は、定員20人以下・人員配置7.5:1の場合で1日あたり約3,250円〜7,910円の幅があります。最高評価(スコア170点以上)と最低評価(60点未満)で約2.4倍の格差です📌。
定員20人の事業所で月22日開所・利用率90%(日平均18人通所)と仮定すると、基本報酬だけで月額約129万〜313万円、年間では1,550万〜3,760万円が事業所に入ります。これに各種加算が上乗せされるため、実際の収入はさらに大きくなります。
令和5年障害福祉サービス等経営実態調査(令和4年度決算)によれば、A型事業所1施設あたりの年間収入は平均約4,478.5万円で、そのうち93.2%が自立支援費等(給付費)です📌。そして支出の65.8%が給与費(人件費)です。
ここから見えてくるのは、A型事業所の収入構造が圧倒的に給付費に依存しているという事実です。そして、その給付費の大部分は支援員等の人件費として消費されている。生産活動の売上は事業所全体の収入の一部に過ぎず、そこから利用者賃金を捻出しなければならない。この構造が、利用者にとっての経済的な脆弱性を生み出しています。
給付費は「利用者が通所したこと」に対して発生する。つまり、利用者が休まず通えば通うほど、事業所の給付費収入は増える。しかし、その増加分が支援の質の向上に直結する仕組みにはなっていない。給付費は支援員の人件費として「費消」されるが、その支援員が実際に質の高い支援を提供しているかどうかは、会計上は可視化されない。
第3章:生産活動と利用者賃金 ― 約半数が赤字の現実
基準省令第192条第2項は、「生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額が、利用者に支払う賃金の総額以上となるようにしなければならない」と定めています📌。
しかし、この基本要件を満たしていない事業所は驚くほど多い。
- 厚労省・社会保障審議会障害者部会提出資料:生産活動収支が賃金総額を下回る事業所は約50.7%📌
A型事業所の約半数が、利用者の賃金を自力で払えていない。しかし、その同じ事業所の支援員の給料は、利用者が通所する限り給付費から安定的に支払われ続ける。
さらに、財務省の調査は一般就労への移行割合が0%の事業所が全体の半数以上であることも指摘しています📌。A型事業所の制度上の目的は「一般就労への移行支援」を含むにもかかわらず、実態としては移行がほとんど行われていない事業所が多数を占めているのです。
赤字が常態化した事業所は、経営改善計画書の提出を求められ、原則1年間(最大延長あり)の猶予が与えられます📌。改善が見込めない場合は、勧告→命令→指定取消しへと移行します。2024年度の報酬改定でマイナス評価が導入されたことにより、この淘汰圧は一気に強まり、年間7,292人の利用者が解雇されました📌。
支援員の給料が安定的に確保される一方で、事業所が経営破綻した場合に経済基盤が脆弱なまま放り出されるのは利用者です。この非対称性は、制度設計そのものに内在する構造的問題です。
第4章:支援の空洞化 ― 「支援の対価」が支援に使われない時
給付費の制度趣旨は「支援の対価」です。利用者が通所し、事業所が福祉サービスを提供することへの報酬として設計されています。しかし、「支援」が適切に提供されていない事業所でも、利用者が通所する限り給付費は発生し続けます。
合理的配慮の拒否は、支援の空洞化の典型です。「障害を言い訳にするな」「ワガママを言うな」「ここで耐えられないなら一般就労は無理だ」――こうした言葉が「指導」の名のもとに発せられている場合、2024年4月から法的義務となった合理的配慮の提供(障害者差別解消法第8条第2項)に違反しうるものです📌。さらに、A型事業所は雇用契約を結ぶため、障害者雇用促進法第35条・第36条の3に基づく合理的配慮義務も課されています📌。
個別支援計画の形骸化も深刻です。利用者の障害特性やニーズに即した個別支援計画の作成はサービス管理責任者の法的義務(基準省令第197条)であり、未作成の場合は30%減算が適用されます。しかし、各自治体の指導監査結果や集団指導資料では、「個別支援計画の作成・更新が不十分」「モニタリング記録の不備」などの指摘例が確認できます📌。
障害者虐待の実態も会計構造と無関係ではありません。令和6年度の障害者虐待対応状況調査では、施設従事者等虐待の判断件数が1,267件📌。A型事業所の利用者は雇用契約を結んでいるため「使用者虐待」の対象ともなり、使用者虐待の虐待種別では経済的虐待が85.0%で最多です📌。
そして、これらの問題を検出すべき行政の監視体制にも課題があります。令和5年度の運営指導実施率はわずか16.5%にとどまり📌、指導指針が求める「おおむね3年に1度」の基準すら大幅に下回っています。
給付費は「支援の対価」として設計されている。しかし、支援の質を直接評価・保証する仕組みが脆弱なまま、安定的な財源として機能している。適切な支援が提供されていなくても、利用者が通所する限り給付費は発生し、支援員の給料は支払われ続ける。利用者にとっての通所中止は収入の喪失を意味するため、「通所をやめる」という選択肢は経済的に極めて困難である。結果として、支援を受けられない利用者が、自らの通所によって、自分を支援しない支援員の給料を発生させ続けるという構造が生じうる。
第5章:自分で確認する ― 利用者がアクセスできる情報源
この構造を知った上で、利用者が自ら事業所の実態を確認するための情報源を整理します。
- WAMNET(障害福祉サービス等情報検索)
https://www.wam.go.jp/sfkohyoout/ から、全国の指定障害福祉サービス事業所の基本情報・運営情報・サービス内容を無料で閲覧できます。障害者総合支援法第76条の3に基づく情報公表制度のインフラです📌。令和6年度から情報公表未報告の事業所には基本報酬5%減算が適用され、報告率の向上が図られています。 - 就労支援事業別事業活動明細書
A型事業所の生産活動収支を直接確認できる書類です。生産活動収入(売上)、経費、利用者賃金総額、そして「就労支援事業活動増減差額」(黒字か赤字か)が記載されています。福岡県など一部の自治体は報告書の提出を求めています。📌。公開状況は自治体によって異なるため、所在地の都道府県に確認してください。 - 経営情報の「見える化」制度(2025年9月〜)
令和6年改正法に基づき、令和7年度から障害福祉サービス事業者の経営情報の報告・公表制度が開始され、2025年8月には経営情報データベースの運用が始まりました📌。事業者の経営情報がデータベース化され、属性別にグルーピングした分析結果が公表されるため、A型事業所の経営実態の透明性は今後さらに向上することが期待されます。 - スコア表の公表
令和6年度から、A型事業所はスコア評価の結果を公表することが求められています。事業所のウェブサイトや掲示板で確認できる場合があります。特に「Ⅱ 生産活動」の項目がマイナス評価(3年連続赤字で−20点)になっていないか、「Ⅵ 経営改善計画」で−50点が付いていないかは、経営の健全性を判断する重要な指標です📌。
おわりに ― 構造を知ることは、武器になる
「利用者は給付金で給料をもらっているくせに」という言葉は、構造を知らない人間の発言です。事実は逆であることを、本コラムで確認しました。
利用者の賃金は、利用者自身の生産活動から支払われている。支援員の給料は、利用者が通所することで発生する給付費から支払われている。そして、その給付費の制度趣旨は「支援の対価」であって、支援が提供されていない場合には、制度の趣旨と実態が乖離していることになる。
この構造を知ることは、合理的配慮を求める際の根拠にもなりますし、事業所選びの際の判断材料にもなります。何より、自分が置かれている制度的な位置を正確に理解することは、不当な扱いに対する最初の防衛線です。
制度は、知っている者を守るようにできています。